印西市「千葉ニュータウン21住区開発用地 (通称、そうふけっぱら)」の生物多様性保全を求める意見書

2013年6月11日

日本植物分類学会

会長  角野 康郎

千葉県知事 森田 健作 殿

千葉県企業庁長 吉田 雅一 殿

独立行政法人都市再生機構 理事長 上西 郁夫 殿

印西市長 板倉 正直 殿

私たち日本植物分類学会は、植物の分類学とその関連分野の研究者からなる学術団体として、日本の植物相の解明とその保全に力を入れてまいりました。特に環境省レッドリストの作成にあたっては学会として現地調査に協力し、日本の植物の危機的状況を詳細な調査資料によって裏付けてきました。その成果は既刊のレッドデータブックや2012年に公表されました環境省第4次レッドリストに反映されています。

私たちの調査から、深山幽谷の原生的自然に生育する植物よりも、人の営みと関わりが深い里山のような身近な自然に生育する植物が消滅の危機にさらされているという実態が明らかになってきました。そのような自然の一つが半自然草地であり、今後、重点的に保全すべき環境であるとして各地で取り組みが始まっています。

このような状況の中で、私たちは千葉県印西市「千葉ニュータウン21住区開発用地(通称、そうふけっぱら)」にきわめて良好な半自然草地を含む里山環境が残されていることと、その場所が今まさに開発の危機にさらされているという情報に接しました。

「そうふけっぱら」の自然の価値については日本自然保護協会の報告などによって指摘されていますので、ここではあえて繰り返しません。約50haの面積に27種の環境省レッドリスト登載種が確認されている情報だけでも、「そうふけっぱら」が全国的視野からみても非常に貴重な場所であると判断できます。

近年、あらたな開発計画では自然との共生が重要な課題となっています。多くの企業がCSR活動に取り組み、また地方自治体においても生物多様性地域戦略の策定を進めているのは、そのような時代の流れを反映したものです。2010年に名古屋市で開催されましたCOP10(第10回生物多様性条約締約国会議)では、生物多様性を保全するための愛知ターゲットが定められました。その「目標12」には、「既知の絶滅危惧種の絶滅及び減少を防止」するということが謳われ、我が国の新たな『生物多様性国家戦略2012-2020』ではその目標に向かっての努力を促しているところです。

千葉県は、全国で最初の地域戦略である「生物多様性ちば県戦略」を策定した自治体です。「そうふけっぱら」の豊かな自然環境の保全を目指すことは、まさにこの戦略に沿うものです。「そうふけっぱら」は、造成によって失ってしまえば再生不能な自然です。奇跡的に残されてきた豊かな自然環境を地域資源として活かし、自然と共生する都市計画の策定を考えることこそ、都市再生機構ならびに地元自治体が目指すべき方向であると考えます。

「そうふけっぱら」の生物多様性の保全は、関東地方の草地環境の保全だけでなく、全国の絶滅危惧種保全の観点からも重大な課題であると私たちは認識しています。「そうふけっぱら」の自然が宅地開発によって永久に失われるか、あるいは保全の取り組みによって守られるかは、日本の自然保護の歴史に刻まれるできごとになるでしょう。今回は、宅地造成計画を見直し、地域の自然と共生する新たな地域づくりへ舵を切る最後のチャンスであると考え、当学会としての意見を申し述べさせていただくものです。当学会としても可能な限りの協力は惜しみません。宜しくご高配の程お願い致します。