会長挨拶
会長 村上哲明(東京都立大学・牧野標本館)
日本植物分類学会は,植物の多様性と,それを生み出した進化に興味をもつ会員の集まりです。現在,会員が行っている研究は,系統分類学分野だけに留まらず,系統地理学,生態学(昆虫や菌類と植物の共生なども含む),集団遺伝学,保全生物学,さらには進化生物学といった幅広い分野にまで及んでいます。また,植物と言っても,陸上植物(コケ植物・シダ植物・裸子植物・被子植物)だけではなく,藻類や高等菌類(キノコ類)を研究対象にしている会員も少なからずいます。植物(広義)を中心にして,まさに多様な研究がおこなわれているのが日本植物分類学会です。
生物学は日々進歩を続けていて,研究手法もどんどん変化しています。30年ほど前に使われ始めたDNA情報を活用した分類学の研究手法は,今では当たり前の手法となり,さらに野生植物種の全ゲノム情報を解読・比較するような研究も会員によって始められています。特に若手会員の皆さんには,どんどん新しい研究にチャレンジしていただきたいですし,それを後押しできるような学会でありたいと思います。現在,地球上の生物多様性は急速に失われつつあります。植物多様性についての研究を加速させて,適切な保全のために必要な知見を一般社会に提供することも本学会の重要な使命の1つだと考えます。
一方で,日本植物分類学会が他の多くの学会と異なっているのは,職業研究者とその卵(学生,院生など)だけでなく,非職業研究者や植物愛好家も多数,正会員となっておられることです。植物について職業研究者以上に,広範かつ深淵な知識を持っておられる非職業研究者の会員もいらっしゃいます。日本には,故・牧野富太郎博士の時代から,職業研究者と非職業研究者・植物愛好家が力を合わせて,日本の植物の多様性を解明して来た長い歴史があります。このような良き伝統は是非とも守っていきたいと思います。多様な会員が楽しめる学会であり続けることは,本学会にとって最重要課題です。そのため,野外で植物を楽しむ野外研修会や一般向けの講演会等を開催し,英文の学会誌のみならず,和文誌も充実を図っております。
もし,植物に本当に興味をもたれたら,一度、本学会の年次大会を覗いてみて下さい。非会員の方でも大会に参加できますので(コロナ禍の下,オンラインで開催されることになった2021年3月の年次大会は,残念ながら会員のみが参加可能となってしまい,申し訳ございません)。そこで,たくさんいる若手会員の発表を聞いていただければ,現在の日本の植物分類学の熱気を感じていただけるはずですし,研究の細かい理屈はともかく,新知見がどんどん得られていることは十分に理解していただけると思います。一緒に植物(広義)の新知見を楽しみましょう!本学会に多様な会員が加わって下さることを歓迎いたします。